『あんたに何がわかるんだい?』

「…どうして、考えてたことがわかったの?!」
そうやって驚かれたことが、結構あります。

読心術を習得しているわけでもなく、
ましてや霊感のたぐいもない。
なので、そう驚かれるたびに
「や、何となく…かなあ」と、何とも腑抜けた答えになってしまう。

カウンセリングの勉強をはじめたばかりの20代の頃。
私は「相手の心を解らなければいけない」という、
今にして思えば、何ともおろかで、不遜な呪縛を自らにかけていました。

そんなある時、ラジオで流れていた歌。
”あんたに何がわかるんだい?”
そのフレーズに心を掴まれて、アルバムを買いました。

”あんたに何がわかるんだい?”
自分で歌ってみると、心がスッとしました。

いかにも解ったようなことを言われて、
それでも反論できなかった悔しさ。
「相手の心を解らなければいけない」という
呪縛のかかった自分。
そして、自分のことをなんでも解っているようで、
実はまるで解っちゃいない、自分自身。

「…そっか、そう簡単にわかるわけないじゃんねえ」
それは絶望でも失望でもなく、
風通しのよい、希望でした。

「解ってるって」
―そうやって、あぐらをかいた瞬間。
誰かと、自分。自分と、自分。
その間にあるコミュニケーションの扉は、ばたん、と閉じる。

わからない
――だから、イチから聴かせて。
わかってほしい
――だから、あきらめず、すねたりせずに話してみよう。

「わからない」から、はじめていいんです。
それは隔たりではなく、理解へのパスポートだから。

「…どうして、考えてたことがわかったの?!」

若い頃から言われてはいたものの、
そう驚かれる機会が増えたのは、むしろ
「相手の心を解らなければいけない」
という呪縛が解けてからだったような気がします。

「わからない」ことに降参したら、心が近づいたのかもしれません。

——————————-
どんなに長い夜でさえ
明けるはずよね?(さあね)
もう何年前の話だい?
囚われたままだね Darling, darling, ah

全然何も聞こえない
琥珀色の波に船が浮かぶ
幻想なんて抱かない
かすんで見えない絵
あんたに何がわかるんだい?
かまうのはなぜ?(さあね)

(宇多田ヒカル『BLUE』)

 

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